ヒルドイドはワセリンと共に酒さ様皮膚炎治療の柱となる保湿剤です。
この2つは皮膚科で処方して頂ける処方薬なので安全性が高く、市販の化粧水が塗れないような肌状態になってしまっても比較的安心して使用できます。
ワセリンに関しては何回かに分けて記事にしてきましたので、今回はヒルドイドの方に焦点を当てていきたいと思います。
ヒルドイドの安全性はかなり高いですが、それでも酒さ様皮膚炎の肌に使うにあたっていくつかの注意点があります。酒さ様の肌にはどんな使いかたをしたらいいのか見ていきましょう。
ワセリン関連の記事はこちら
もくじ
ヒルドイドとは
ヒルドイドは病院で処方される保湿剤です。皮膚科限定という訳ではないのでどの病院でも処方して頂けますが、保湿剤という性質から皮膚科や小児科での処方が多いのではないかと思われます。
ヒルドイドの主成分
ヒルドイドの主成分はヘパリン類似物質というものです。「ヘパリン」という物質に似ているためにこういうネーミングになりました。
ヘパリンとは
ではヘパリンというのがどのようなものかというと、「ムコ多糖類」の仲間で保湿成分の一種です。
ムコ多糖類というのは人間の肝臓で作られており、お仲間にはコンドロイチン、ヒアルロン酸、グルコサミンなどが含まれます。コンドロイチンやヒアルロン酸が出てくるあたり、保湿にとても良さそうですね。
ムコ多糖類の働き
ムコ多糖類にどのような働きがあるかというと
- 保湿作用
- 血行促進作用
- 抗炎症作用
がメインとなります。
このうち保湿作用と抗炎症作用に関しては問題ありませんが、血行促進作用に関しては酒さ様皮膚炎の肌に悪さをする場合があります。詳しくは後述しますので、まずは他の特性も見ていきます。
ヒルドイドの安全性
安全性の高さではワセリンに劣りますが、ヒルドイドの安全性もかなりのものです。
そもそもの使用暦として既に50年以上使われており、その間重大な副作用が報告されていません。
ヒルドイドは最初から保湿剤として使用されていたわけではなく、元々は血行障害改善のために使用されていた医薬品です。
それが抜群の保湿性能により徐々に保湿剤としても使用されるようになり、ついには保湿剤として処方することが正式に認定されたという経緯をたどっています。
製造元のマルホ株式会社さんのホームページからヒルドイドの歴史を見てみます。ページには他の製品も載っていますがヒルドイドの部分だけ抜粋します。
1954年 – 凝血阻止血行促進剤「ヒルドイド」
1990年 – 「ヒルドイド」皮脂欠乏症の効能追加。薬効分類を血行促進・皮膚保湿剤に変更
1996年 – 血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイドソフト」
2001年 – 血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイドローション」
抜粋:マルホ株式会社 – 沿革
「ヒルドイド」が使われているのは実に1954年からで60年近く使われていますね。
保湿剤に変更されたのは1990年からのようです。その後、保湿剤として塗りやすいヒルドイドソフトやヒルドイドローションを開発されています。
長く使われている製品は年月による安全性が期待できますし、ヒルドイドに関しては医薬品としても使用されているという信頼性があります。
保湿剤として頻繁に処方されていることから老若男女問わず使用されてきており、臨床試験を重ねたスキンケア用品よりもはるかに使用されています。
にも関わらず今だに重大な副作用が報告されていないという点から、安全性に関してはかなりのものだと考えていいです。
ヒルドイドの種類
ヒルドイドにも種類があり、現在以下の3種類があります。
- ヒルドイドクリーム
- ヒルドイドソフト軟膏
- ヒルドイドローション
ヒルドイドクリーム
このうち、ヒルドイドクリームが最初に血液凝固剤として使用されていたものですね。通常処方されるローションやソフトではなく、いかにも薬っぽいステロイドのチューブによく似た塗り薬です。
クリームという名前ですけど実態は軟膏ですね。その後にヒルドイドソフト軟膏を発売したので名前がややこしい事になっています。
ヒルドイドソフト軟膏
ヒルドイドのクリーム状と言われて浮かぶのは、上記のヒルドイドクリームじゃなくてこちらだと思います。
クリーム状のテクスチャで少し重たい使用感ですが、保湿力は抜群です。
ヒルドイドローション
ローションという名前ですが乳液状です。乳液のようなテクスチャなので、顔などには塗りやすいです。ソフト軟膏ほどべたつかず、保湿力もちゃんとあります。
ビーソフテン(ヘパリン類似物質)
さらにヒルドイドにはジェネリックのビーソフテンというものがあります。医師の変更許可があれば薬局でジェネリックを出してもらうことが可能です。
ビーソフテンにも各ヒルドイドに対応したシリーズがあり、基材が違うためにテクスチャが全く異なります。
ヒルドイドソフト軟膏に対応するヘパリン類似物質油性クリーム(旧名称:ビーソフテン油性クリーム)はヒルドイドより柔らかく塗り広げやすいものの保湿力は落ちます。
ヒルドイドローションに対応するビーソフテンローションは、とろみのある化粧水状のテクスチャです。乳液状であるヒルドイドローションと重ねづけしたり使い分けたりすることができます。
ヒルドイドの副作用
ヒルドイドの副作用ですが、ヒルドイドの種類によって多少異なります。
ヒルドイドクリームという軟膏で少数の副作用が報告されています。
副作用の内容は
総投与症例2471例中、23例(0.93%)に副作用が認められ、主なものは皮膚炎9件(0.36%)、そう痒8件(0.32%)、発赤5件(0.20%)、発疹4件(0.16%)、潮紅3件(0.12%)等であった。(効能追加時)
このヒルドイドクリームはあまり処方されておらず、保湿剤の処方としてはローションやソフト軟膏が一般的です。
この2つに関しては両方に
本剤による副作用は認められなかった。(承認時)
と記載されていますのであまり気にする必要はないと思われます。
ヒルドイドの血行促進作用と酒さ様皮膚炎
ヒルドイドの主な効果には血行促進作用が含まれています。
この血行促進作用は通常であればいい効果ですが、酒さ様皮膚炎に関しては悪化してしまう場合があります。
酒さ様皮膚炎と血管、皮膚萎縮
酒さや酒さ様皮膚炎では皮膚の下で血管の拡張が起こっています。
酒さ様皮膚炎の場合はそれに加えてステロイドの副作用で皮膚萎縮と言って皮膚が薄くなる現象が起こっています。酒さの方はステロイドの副作用に関わらず皮膚が薄い傾向があります。
皮膚が薄いという事と皮膚の下の血管が拡張されていることから、顔の赤みが出やすい状態となっています。
発症部位の炎症
さらに酒さ様皮膚炎の場合は、脱ステロイドによる離脱症状などから皮膚に炎症を起こしています。
こういった炎症部位にヒルドイドを塗ると、血行促進作用によって赤みがさらに増す可能性があります。
つまり、ヒルドイドの血行促進作用がいい状態に働くのは、ある程度炎症が落ち着いてからです。炎症がひどい状態で塗ると、さらに炎症を誘発してしまう可能性があります。
ヒルドイドを塗ってはいけない場合とその他の対処法
酒さ様皮膚炎発症直後の場合は顔が真っ赤に晴れ上がり、リンパ液や膿などにも悩まされます。こういった状態の肌は、目に見えないだけで細かい傷がたくさんあります。
リンパ液が出てくるんだから傷口があるのは想像できますよね。
ヒルドイドはあくまで保湿剤ですので、傷口に塗ってはいけません。発症直後のリンパ液や膿などに悩まされている状態の時は塗らないほうがいいです。
製造元のマルホさんの文書にも
適用上の注意
投与部位:潰瘍、びらん面への直接塗擦又は塗布を避けること。
眼には使用しないこと。
との記述があります。びらん面ってのはただれですが、酒さ様発症直後の皮膚はまさにただれです。
他の皮膚病であればこの状態の時にはステロイドやプロトピックが処方されますが、酒さよう皮膚炎の場合はその薬が原因なのですからこれも使えません。
こういう状態の時に塗れるのはワセリンのみとなります。
化粧水的なものも塗りたいと思った場合は精製水でしのぎましょう。化粧水のように塗るのではなく、精製水で顔を流すことによって冷却効果も得られ、皮膚の表面の汚れも多少落ちますので発症直後にはお勧めです。
ヒルドイドがいくら安全と言っても、真っ赤に腫れ上がった肌に塗って改善を促せるようなものではありません。
発症直後やリバウンド直後などの肌状態がひどい時は、ヒルドイドがどうこう以前に洗顔や保湿をする行為自体をやめた方が肌改善に繋がります。
ヒルドイドが肌に合わない可能性
ヒルドイドはワセリンと違い、有効成分のヘパリン類似物質以外の基材が含まれています。
ヒルドイドにヘパリン類似物質は0.3%しか含まれていません。これはどの種類のヒルドイドであっても同じ濃度です。
その他の99.7%は他の物質を使ってクリーム状や乳液状にしています。この基材にはグリセリンや白色ワセリンがある他、界面活性剤も含まれます。ヒルドイドに含まれる界面活性剤は微量ではありますが、やはり酒さよう皮膚炎の肌に反応してしまう場合があります。
また、基材の中にあるラノリンやスクワランなどの物質にアレルギーを起こす可能性もあります。
ヒルドイドの種類によって混ぜられている基材も違いますので、ソフトは大丈夫だけれどもローションはダメ、という人もいます。
基材を見ている限り確率で言えばソフトの方が反応しにくそうですが、これは人による部分ですので、鵜呑みにせず自分の肌に合わないと思ったら使用を中止してください。
ヒルドイドを処方してもらえない場合
あくまで処方薬なので保湿に慎重なお医者様の場合は処方しないかもしれませんが、大抵の場合は処方して頂けると思います。
ただ、上にも書いたように酒さ様皮膚炎の場合は却って悪化する可能性もあるので、慎重なお医者さまは処方しないかもしれません。
そういうドクターに当たった場合は、お医者様の言うとおり保湿自体をしばらく止めて下さい。とりあえずヒルドイド出しとけ、と考えるよりはよっぽどましなお医者さまです。
ヒルドイドって割と処方して頂きやすいお薬ですが、それでも塗るなと言われるなら肌状態を診た上で何らかの理由があるはずです。そういった場合は低刺激の化粧水も塗らないほうがいいかと思います。
一生塗るな、ということではないでしょうから肌の様子が落ち着くまではお医者様の指示に従い自己判断で勝手に塗るのは止めましょう。
ヒルドイドの市販薬
ヒルドイドは処方薬なので市販薬はありません。ヒルドイドの保湿性能や安全性は有効成分のヘパリン類似物質だけのものではなく、他の基材も合わせてのものとなります。
ですのでヒルドイドと同等の市販品はありませんが、ヘパリン類似物質が配合された化粧水やクリームならば市販されています。
注意書きを見るとヒルドイドと同様の事が書いてありますが、発売元は別の会社です。基材などの違いから同様の効果は得られる保証はありませんが、ヘパリン類似物質自体は安全性の高い物質です。
皮膚科に行っているのであればヒルドイドを貰うのが一番ですし、医師に止められたならそもそも塗るべきではありません。
皮膚科に行きそびれた時や貰いそびれた時などには、下手な化粧水よりいいかと思います。
あと、ヒルドイドに関しては処方薬なので肌の改善と共に別の化粧水を探さないといけないんですよね。皮膚科に通う必要がなくなったのに、保湿目的でヒルドイドを貰いにいく訳にもいきません。
酒さ様皮膚炎の場合は治療が長期に渡るので、小康期に入ったら定期的に通えない方もいるのではないでしょうか。
そういった時には選択肢の一つになるかと思いますが、上記の商品は第2医薬品に分類されています。できれば長期的に使うのでなく、最終的には普通の化粧水まで戻したいところですね。
まとめ
酒さ様皮膚炎になってしまうと、どうしても市販の化粧水などが塗れなくなります。
発症初期から頼れるのはワセリンなので、ここのところワセリン関連の記事を書き続けてました。
それでもやっぱり化粧水は塗りたいでしょうし(私は塗りたかった)、酒さ様でも塗れる化粧水って大事なんですよね。
保湿vs脱保湿に関しての議論とは別にやっぱり保湿したい時もありますし、皮剥け期なんか保湿するなとか言われたらただの拷問。
化粧と同じで、肌を痛めないという正論だけで日々の暮らしが成り立つ訳ではありません。治療期間の長い病気ですから、正論を理解しつつも折り合いをつけていくのは大事です。
その一つとして手作り化粧水を紹介するつもりだったのですが、ちょっと考え直してヒルドイドが先になりました。
考え直した理由はごく単純。酒さ様皮膚炎の方の場合は、手作り化粧水よりヒルドイドの方が敷居が低いから。皆さん皮膚科にかかってらっしゃるでしょうから、これを塗れと渡されている人も多いはずです。
まずは手元にあるものから使えるほうがいいでしょうし、手作り化粧水はちゃんと作れば低刺激のものが作れますが保管などに神経を使わなければいけないという欠点もあります。
そういった欠点をクリアしつつ作るのでちょっとハードル高いんですよね。最初は訳が分からないので材料買うのも面倒ですし。
そんな訳でしばらくヒルドイドの記事が続く予定です。今回はヒルドイドの特性をまとめただけでえらく長くなってしまったので、個々の使用感などはあまり触れませんでした。次回は個々の使用法についてもうちょっとつっ込んでみようかと思っています。