石けんを選ぶときの基準はどのようなものでしょうか。
石けんをお使いの方でも、洗濯用の純石鹸を使ってみたら何となく油臭かったり、洗い上がりがさっぱりしすぎたりという経験はあるかと思います。
また、石けんを変えたらニキビができやすくなった、なんて方も。
石けんには原料とされる油脂と作り方の違いがあります。原料となる油脂が肌に合わない場合、その石けんも肌に合わない可能性が高いです。
この違いを知っておくと、肌に合わなそうな石けんは事前に察知することができます。
単純な話、オリーブオイルが肌に合わない人は、オリーブ石けんを使うとニキビができやすくなったりします。
原料油脂が肌に合わなければその石けんが肌に合う訳ないのですが、ここを勘違いして石けん自体がダメなのだと思ってしまう人も。
酒さや酒さ様皮膚炎のように肌荒れがひどいと純石鹸を使った洗顔を勧められる事もありますが、肌に合わないものを選ぶと却って肌荒れの元。そもそも皮膚疾患を患うくらいに過敏な肌には、石けん自体が合わない可能性もあります。
石けんにも自分の肌に合うかどうかがあり、肌に合ったものを使うとびっくりするくらい洗い上がりやその後の化粧水浸透が違うことも。
原料油脂や石けんの作り方から、その石けんの大まかな傾向が分かりますので覚えておいてください。
もくじ
石けんの作り方
石けんというのは、原料となる油脂に苛性ソーダを入れて作ります。純石鹸と呼ばれる石けんは、この工程で出来上がった「石けん素地」というものだけで作られています。
原料にどんな油を使っていようが、出来上がったものの成分表示は「石けん素地」「純石けん分」「脂肪酸ナトリウム」のようになります。これらは呼び方が違うだけで同じものを意味します。
固形石けんは苛性ソーダで煮ますが、苛性カリで煮ると液体石けんになります。出来上がった石けんの成分表示が「脂肪酸カリウム」になります。
そのため、純石けんかどうか見分けるには、成分表示が「石けん素地」「純石けん分」「脂肪酸ナトリウム(またはカリウム)」のようになっている必要があります。
原料が何であっても石けん素地
純石鹸かどうか見分けるには、成分表示を見れば簡単です。ただし、ここで注意したいのは原料が何かを表示する必要がない、ということ。
安価で不純物の多い油脂を使っていても、高価で精製度の高い油脂を使っていても、純石けんであれば成分表示は「石けん素地」です。
純石鹸の見分け方の記事では、「純石鹸」というくくりだけなら洗濯用の石鹸も純石けんだというお話をしました。
また、固形の純石鹸を集めた記事を見ると、同じメーカーから色々な種類の「純石鹸」が出ているのも分かります。同じメーカーから洗濯用せっけんと浴用石鹸が出ていて、さらにベビー用まで出ていたりします。
これは原料油脂や精製度を変えて安価に製造できるものと、刺激が起きにくく敏感な肌でも使えるように配慮されたものとが違うからです。
こういった理由から、同じメーカーの純石けんでも、洗濯用を使ってみたら刺激を感じたり、油臭さを感じたりする原因になります。
まずは原料油脂で石けんを選ぼう
石けんが合いにくいと感じている場合、その石けんの原料油脂が肌に合わない可能性も考えられます。
石けんの原料は動植物から取れる油脂です。動物性脂肪が肌に合わない人が、馬油由来の石けんを使えないですよね。
一般的には肌に優しい処方になるほど植物由来のものが使われやすいです。
多くのメーカーで肌に優しい処方になるほど植物由来の油脂にシフトしますから、動物由来の石けんは少し上級者のイメージ。とはいえ、肌に合ったものを使えば洗いあがりや肌の仕上がりなどが断然違います。
石けんというか、洗顔という行為は肌を傷める割合の多い行為ですし、洗顔方法を変えると肌質も変わりやすいです。
石けんを使う場合は、肌に合った油脂できちんとした品質のものを使っているメーカーを選びましょう。
ただし、原料油脂やその配合率を公開しているかどうかはそのメーカー次第です。
肌質タイプ別油脂の選び方
自分に合った油脂が分かっている方はそれでいいのですが、オイル美容に興味のない方だといったいどんな油脂が自分に合うのか分からないと思います。
肌のタイプ別に大まかな傾向をまとめておきますので、参考にして下さい。もちろん、相性もありますのでこの通りでなくても全く問題はありません。相性のいい油脂由来の石けんをつかいましょう。
普通肌~脂性肌
普通肌や脂性肌の方は牛脂やパーム油脂など、さっぱりと洗いあげられる石けんが向いています。皮脂を落とすのが得意なため、脂性肌の方にも向きます。
但し、牛脂やパーム油に含まれるパルミチン酸やステアリン酸は洗浄力が高く、オレイン酸などと比べると皮膚刺激も高くなっています。
牛脂やパーム油脂は水温で溶けにくい性質を持つため、多くのものが他の油脂と混合されています。配合比率なども意識して選びましょう。
乾燥肌、敏感肌
乾燥気味の方や敏感肌の方は、オリーブオイルやアボカドオイル、スイートアーモンドオイルなどが向いています。
オレイン酸がたっぷりでしっとりと洗いあげられる他、皮脂を落としにくいため、肌に必要な皮脂は残してくれる傾向にあります。
また、オレイン酸は脂肪酸の中でも皮膚刺激が特に低く、敏感肌の方でも石けんを使いたい時に最適です。
但し、やはり石けんですからアルカリの刺激はありますし、弱酸性に仕立てようとすれば石けん素地以外の成分が入ってきます。
また、細胞間脂質の成分でもあるコレステロールが溶けだしやすいため、洗いすぎには注意しましょう。
石けんの製法
石けんの作り方には2種類あります。そのうち鹸化(けんか)法と呼ばれる製法はさらにホットプロセスとコールドプロセスに分かれます。
製法 | 特徴 | |
---|---|---|
鹸化 | ホットプロセス (釜炊き法) | 伝統的な石けん製造法。 原料油脂とアルカリ剤を攪拌しながら加熱する。 |
コールドプロセス (冷製法) | 加熱せずに反応熱だけで鹸化する。 | |
中和 | 中和法 | 予め油脂を分解し、脂肪酸だけをアルカリ剤と反応させる。 大量生産に向き品質も安定する。 天然の保湿成分が残らず洗浄力が強い。 |
鹸化法:ホットプロセス
鹸化法で石けんを作るのは手間がかかります。原料油脂とアルカリを反応させて作る、昔ながらの手法です。
鹸化させたあとにグリセリンや不純物を抜きますが、未反応の油脂や天然の保湿成分であるグリセリンが保湿剤の働きをし、肌に優しい石けんに仕上がります。
但し、不純物が多ければ安定性は低く変質も早いので、さじ加減が難しく、メーカーや職人の好みや技術の差が出ます。
鹸化に熱を加える方法をホットプロセス、加えない方法をコールドプロセスと呼びます。ホットプロセスが一般的な釜だき製法で、多くのメーカーが採用しています。
鹸化法:コールドプロセス
ホットプロセスよりもコールドプロセスの方がさらに手間暇がかかります。加熱をせずにすすめるため鹸化に時間がかかります。
ホットプロセスが数日なのに対し、コールドプロセスは数か月かかることも。
その代り、油脂が熱による酸化ダメージを受けにくくグリセリンも石けん中に残りやすいため、よりマイルドでしっとりした石けんが出来上がります。
原料油脂の性質が最も活かされているのがこのコールドプロセス。油脂の中に含まれているビタミンやスクワレンなども劣化しにくく石けんに残ったままとなります。
一般家庭で作られる手作り石鹸は、熱を加えないコールドプロセスで作られることが一般的です。
デメリットとしては、製造に時間と手間がかかるので価格が上がってしまう点が挙げられます。また、石けんにとって大事な泡立ちが悪いため、使用感の好みが出ます。
中和法
中和法はあらかじめ油脂を脂肪酸とグリセリンに分け、脂肪酸だけを反応させて作ります。この方法だと数時間程度で石けんを作成でき、不純物も含まれにくいため品質も安定します。
大量生産ができるため大手メーカーの石けんは主にこの中和法で作られてます。
デメリットとしては、グリセリンを抜いてしまってあるので保湿成分が残らないこと。洗浄力が強く保湿成分が残らないため、汚れ落ちはいいのですが皮膚刺激は強めです。
製法の違いも石けんを選ぶ基準にしよう
こうした違いを見てくると分かるように、肌に優しい石けんは鹸化法で作られたものです。
中和法で大量生産された石けんは、品質が安定しているというメリットの反面、洗浄力も肌刺激も強い傾向にあります。
汚れというのはしっかりと落とすものというイメージがありますが、石けんの洗浄力が強すぎると本来肌に必要な皮脂すら落としてしまいます。
人の皮脂は自分に合った最高の保湿成分であるとともに、肌のバリア機能を守る大切な存在。落としすぎると却って乾燥したり肌バリアの低下を招きます。
また、皮脂は落とせば落とすほど肌を守ろうとして盛んに分泌されます。インナードライの傾向にある人は、少ない皮脂を落としすぎているため却って皮脂が分泌され、表面は脂でべたつくのに肌の内側は乾燥しているという特徴があります。
肌バリアが弱り刺激を受けやすくなっている肌ほど、落としすぎず適度に残すことを考えて洗わなくてはなりません。
酒さや酒さ様皮膚炎のように皮膚疾患を持った肌や、敏感肌に代表されるように刺激に弱い肌は、できるだけ天然の保湿成分が残る鹸化法で作られた石けんを選ぶようにしましょう。
但し、中和法の石けんが悪いという訳ではなく、中和法にも不純物が含まれないというメリットがあります。石けんの不純物に反応している方は中和法の方が向く可能性もありますが、その場合は高い洗浄力をどのように使いこなすかを工夫するといいでしょう。
キャリーオーバー成分にも注意
あらかじめ原料となる油脂に化学添加物を加えておいて石けんに仕立てることで、成分表示には「石けん素地」とだけ記載することができます。
こういった成分を「キャリーオーバー成分」と呼びます。
油脂に酸化防止剤を配合しておくことで長期保存ができるようになる、というようなメリットもあります。
一般消費者から見ると、成分表示が「石けん素地」だけなので安心して買うと、化学物質が含まれていた、という事が起こり得ます。
肌の弱い人が無添加系の石けんを使ってヒリヒリしたり突っ張ったり、刺激を感じたりするのはこのキャリーオーバー成分による刺激の可能性もあります。
また、キャリーオーバー成分には原料油脂に使われた農薬なども含まれます。有機肥料であれば動物のフンも使われますが、その動物が食べたエサが合成肥料であれば化学物質が残留します。
こういったことから、原料油脂の品質というのも石けんを選ぶ際にチェックしておきたいポイント。
石けん作りが専門のきちんとしたメーカーほど、原料油脂の品質や製造方法などを公開していますが、その分値段は上がってきます。
まとめ
石けんといっても安価なものから高価なものまで色々出ていますよね。
純石鹸なども、安価なものから職人さんが手作りで作った高価なものまで様々です。
高価な石鹸は大量生産ができませんから一部の店舗で細々と売られていますが、肌の弱い人や美容意識の高い人から支持を受けています。
ホットプロセスの中でも大量に作られている石けんはコストパフォーマンスが抜群で品質も確かですが、その手の純石鹸ですら使えない方はさらに肌に優しい石けんというのもあります。
安価な石けんでは肌荒れしてしまう、という方や、安価なものでも高価なものでも一緒だ、と思っている方は一度石けんの選び方を見直してみましょう。