酒さや酒さ様皮膚炎に良く処方される「十味敗毒湯」という漢方薬には、生薬の配合違いで2種類のレシピが存在します。
その2種類はそれぞれクラシエとツムラという2大漢方メーカーから販売されていることもあり、近所のドラッグストアでも入手できますし保険診療の医師から処方して頂くことも可能です。
そこで感じるのが、生薬の配合が違うなら酒さに対する効き目も違うんじゃないの?という疑問。
そこで今回は、クラシエとツムラにおける十味敗毒湯の違いについてまとめておきたいと思います。
もくじ
十味敗毒湯と酒さ
酒さや酒さ様皮膚炎の治療で漢方薬を取り入れようとしている場合、酒さにはこれ、と言われる漢方がいくつかあります。
その中で「十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)」というのは、皮膚科医の先生が医学論文にもしているような漢方薬。
多くの皮膚科医が採用していますし、ホームページで十味敗毒湯の効果を記事にしている皮膚科もあり、酒さ治療に使われる漢方薬の第一選択肢となっているようです。
十味敗毒湯はニキビにも処方される漢方薬ですから、Ⅰ型酒さ(赤ら顔・毛細血管拡張タイプ)よりもⅡ型酒さ(ブツブツ・丘疹膿疱タイプ)に効きそうに思います。
ところが、十味敗毒湯は酒さの「びまん性紅斑(赤ら顔のこと)」に効いたという報告があります。そうなるとⅠ型酒さ、Ⅱ型酒さの両方に効く可能性があり、人によって治療法や改善法が全く異なる酒さという病態の中でも、十味敗毒湯で症状が軽快する可能性も高くなりますね。
漢方薬メモ
漢方薬というのは本来、体質や現在の身体バランスなどを含めて総合的に考えるものであり、西洋医学のように酒さ=〇〇というような処方ができる訳ではありません。
それでも西洋医学の現場では酒さに対して十味敗毒湯が処方されている現状があり、酒さに効いたという声も多いです。
一方で全く効果を感じない場合や、体質によっては悪化することもあり得ます。
処方薬や市販薬を利用する場合は、漢方薬というものの性質をきちんと捉えた上で利用するようにしましょう。
十味敗毒湯とは
「十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)」というのはニキビや湿疹、皮膚疾患の漢方薬。
毒素を排出する効果があり、患部が湿潤型(じゅくじゅくしている)時に水分や熱を発散させることで肌を正常にしていきます。
体力は中程度以上の人に向くとされていて、以下のような皮膚疾患に向きます。
- 皮膚の赤み
- かゆみ
- 腫れ
- 化膿
江戸時代の有名な医師「華岡青洲」が発案した漢方薬で、中国の処方を日本人向けに改良した包材として知られています。
「十味」とついているのはこの漢方薬が10種類の生薬から成り立っているから。ツムラとクラシエで配合されている生薬は違いますが、どちらも数は10種類です。
十味敗毒湯について詳しくは以前の記事にまとめてありますので、そちらをご覧ください。
十味敗毒湯が向く人
ここからはツムラとクラシエ、両方を比べながら十味敗毒湯を掘り下げていきます。
十味敗毒湯が向くのはどんな皮膚疾患かというのは、クラシエとツムラそれぞれのサイトに記載されています。
ツムラ
- できはじめのかゆくて赤い湿疹・皮膚炎
- じんましん
引用:ツムラ – 十味敗毒湯
クラシエ
「水」が滞るタイプ
- 急にじんましんや湿疹が出た方
- 膿をもつような皮膚疾患ができたばかりの方
共にじんましんや湿疹などに対する効果を謳っていますが、クラシエの方が少し具体的に書かれていますね。
特にクラシエの方を見ると「水」が滞るタイプで「膿」が出るような皮膚疾患に向くと分かります。
十味敗毒湯の効果・効能
以下、引用元は上記と同じページです。
ツムラ
効能・効果
体力中等度なものの皮膚疾患で、発赤があり、ときに化膿するものの次の諸症:
化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、湿疹・皮膚炎、水虫
クラシエ
「十味敗毒湯」はどんなふうに効くの?
「十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)」は、患部が湿潤型でじゅくじゅくしているときに、肌をふさいでいる余分なものを出すとともに、「水(すい)」や熱を発散させて、肌を正常にしていく処方です。(以下略)
両者を良く見ると効果・効能も分かりやすい
先ほどの向くタイプも併せて見ていくと
- 化膿性
- 湿潤型(じゅくじゅく)
- 急性(できはじめ)
- 発赤
- かゆみ
のようなキーワードが浮かんできますね。そう、これが十味敗毒湯の効果・効能そのものです。
効果・効能から見る酒さ(様皮膚炎)への使い方
上記までで、十味敗毒湯は膿のあるような皮膚疾患や、じゅくじゅくとした浸出液があるような場合に向く包材なのが分かります。
この症状がぴったり当てはまるのは、酒さ様皮膚炎の脱ステロイド時。脱ステロイド時には顔中が浸出液や膿だらけでじゅくじゅくとしていますし、黄色いリンパ液が流れてきては固まって・・・なんて壮絶な思いをしなくてはなりません。
脱ステ時に当てはまる特徴ですから、アトピーであっても他の皮膚疾患であっても膿や浸出液などの症状があれば十味敗毒湯が向きます。
私自身もツムラの十味敗毒湯で脱ステを乗り切っていますから、膿や浸出液に対する効果はツムラ、クラシエ共にありそうです。
一方、酒さに関しては膿やリンパ液が出てくるような重度の酒さには向きそうですが、Ⅰ型酒さで顔の赤みだけがあるようなタイプにはどうなんだろう、という疑問が沸いてきます。
十味敗毒湯には紅斑(顔の赤み、赤ら顔)に対する効果もあると言われていますので、もう少し掘り下げていきたいと思います。
十味敗毒湯の生薬
ツムラとクラシエの十味敗毒湯が大きく違うのは、生薬の種類です。
どちらも10種類の生薬を使っていますが、ツムラは樸樕(ボクソク)を使用しているのに対し、クラシエは桜皮(オウヒ)を使っています。
ツムラ
- 荊芥(ケイガイ)
発汗・解熱作用、消炎作用、止血作用 - 防風(ボウフウ)
発汗作用、解熱作用、鎮痛作用 - 柴胡(サイコ)
解熱作用、解毒作用、鎮痛作用、鎮静作用 - 桔梗(キキョウ)
鎮咳作用、去痰作用、排膿作用、末梢血管拡張作用 - 川きゅう(センキュウ)
鎮痙作用、鎮静作用、降圧作用、血管拡張作用、抗菌・抗真菌作用 - 茯苓(ブクリョウ)
利尿作用、健胃作用、滋養、鎮静、血糖降下 - 甘草(カンゾウ)
鎮静作用、肝機能改善作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用 - 生姜(ショウキョウ)
解熱、鎮痛、せき止め、抗けいれん、抗炎症作用 - 樸樕(ボクソク)
駆瘀血、解毒
- 独活(ドッカツ)
発汗作用、解毒作用、血管収縮作用
クラシエ
- 荊芥(ケイガイ)
- 防風(ボウフウ)
- 柴胡(サイコ)
- 桔梗(キキョウ)
- 川きゅう(センキュウ)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 甘草(カンゾウ)
- 生姜(ショウキョウ)
- 桜皮(オウヒ)
排膿、解毒 - 独活(ドッカツ)
樸樕(ボクソク)と桜皮(オウヒ)の違い
ツムラとクラシエの違いはボクソクの代わりにオウヒが使われているかどうかです。
ボクソクがクヌギの樹皮なのに対し、オウヒはヤマザクラの樹皮です。
どちらも解毒作用に優れ、湿疹やじんましんの治療に用いられます。
ボクソクには収れん作用があり、皮膚病の収れんに効果があります。
一方オウヒは皮膚病の他、咳止めにも用いられ、解熱・止咳・収れん薬としても使われています。
十味敗毒湯、処方薬におけるツムラとクラシエの違い
処方薬に限った場合、十味敗毒湯はツムラとクラシエで以下のような違いがあります。
ツムラ | クラシエ | |
---|---|---|
形状 | 顆粒 | 錠剤 |
一回分 | 1包(2.5g) | 2包(6粒) |
包材 | ボクソク | オウヒ |
処方薬で頂くクラシエの漢方薬に関しては今のところ全部錠剤です。錠剤の方が飲みやすいので漢方が苦手な方にはおススメですが、顆粒の方が吸収が良いとも言われます。
なお、ドラッグストアで入手できる十味敗毒湯にはクラシエの顆粒タイプも存在しているようですので、クラシエ=錠剤という訳ではなさそうです。
十味敗毒湯は赤ら顔にも効く
十味敗毒湯は、皮膚科の医師が酒さに対する効果を医学文献として発表しているほか、ホームページで発信もしています。
その中に、十味敗毒湯はびまん性紅斑、つまり赤ら顔に対しても良く効いたというものがあります。
私は1995年に従来はニキビに効果があるとされてきた漢方薬、十味敗毒湯が酒さのびまん性紅班に著効を示すことを始めて報告しました(1)。現在に至るまで、少なくとも1000人以上の酒さの患者さんに処方し、90%以上の症例で投与後7日以内に、顔のびまん性紅班が著明に改善しました
こちらのサイトではツムラとクラシエ、どちらの包材が使われているかはっきりしませんが、実際の皮膚科医が1000人以上の酒さ患者さんに処方し、90%以上で著明に改善したと言われています。
著明に改善、つまりとっても良く効いたということですね。
注目したいのは、投与後7日以内にという記述が見受けられること。漢方薬は体質改善の意味も含めて長期で飲む印象がありますが、十味敗毒湯の赤ら顔に対する効果は即効性もあるようです。
筆者は1995年に十味敗毒湯が酒さのびまん性紅斑に著効を示すことを初めて報告した。この報告で使用した十味敗毒湯(10種の生薬からなる)は、ボクソクを使用しており、十味敗毒湯を考案した華岡青洲の処方ではボクソクの代わりにオウヒが使われていた。今回は酒さのびまん性紅斑に対する「オウヒを用いた十味敗毒湯」の治療効果を一過性びまん性紅斑から持続性びまん性紅斑に進行した酒さの7症例で検討した。「オウヒを用いた十味敗毒湯」内服後に酒さの持続性びまん性紅斑がほぼ消失するのに要した日数は症例ごとに4、3、3、4、7、3、11日であり、著効を示すとともに即効性であった。副作用は全例で認めなかった。
こちらは中西皮膚科の中西先生の医学文献。
こちらも上記と同様、酒さの赤みに対して即効性があったと発表されています。
また、1995年に酒さの赤みに効くと報告した時にはボクソクを使用した十味敗毒湯(ツムラ)であったことが分かります。
その後オウヒを使用した十味敗毒湯(クラシエ)のもので、酒さ症状が進行している7症例に試したところ、4~11日程度で赤ら顔が消失したとのこと。
ここまでではツムラとクラシエに大きな違いはなさそうです。
桜皮(オウヒ)が女性ホルモンに及ぼす影響
それほど多くの違いがなさそうなツムラとクラシエの十味敗毒湯ですが、近年の研究でオウヒには女性ホルモンを整える働きがあることが分かったそうです。
私がクラシエの十味敗毒湯を飲んで、と言われた時も医師から女性ホルモンを整える働きがあると聞かされました。
さすがに皮膚科の先生ともなると、一般に下りてくる前にそういった情報が入手できるのでしょうね。情報を発信してくれている皮膚科医のサイトを引用いたします。
十味敗毒湯に含まれる荊芥(ケイガイ)・甘草(カンゾウ)の持つアクネ菌に対する抗菌作用がにきびに効果があるとして用いられてきましたが、
今回あらたに「エストロゲン(女性ホルモン)産生作用」があると報告されました。
特に桜皮が配合されている『十味敗毒湯』は、女性のニキビに有用性が高いとの報告があります。
『十味敗毒湯』がニキビに効果を現すメカニズムとしては、配合されている荊芥、甘草などの生薬が持つアクネ菌に対する抗菌作用が主と考えられてきました。
最近の研究では、桜皮を配合する『十味敗毒湯』が、皮膚のエストロゲン分泌を促進してニキビが改善することがわかりました。
つまり、今までは荊芥(ケイガイ)・甘草(カンゾウ)の殺菌作用がニキビに有効と思われていたのが、新たに桜皮(オウヒ)によるエストロゲン(女性ホルモン)分泌作用が分かったため、女性のニキビに対して良く効くそうです。
女性ホルモンとニキビ
エストロゲンというのは女性ホルモンで、男性ホルモンを抑制する働きがあります。
男性ホルモンが活発になると皮脂が多くなり、ニキビの元となっていきます。
また、男性ホルモンには皮膚を厚くする作用があり、毛穴が詰まりやすくなるためニキビにもなりやすくなります。
そのため、男性ホルモンの分泌が盛んになるとニキビが発生しやすくなりますが、女性が生理前になると分泌される「黄体ホルモン(プロゲステロン)」には男性ホルモンと同じような働きがあります。
エストロゲンの増加でニキビや酒さに効く
オウヒで分泌されるエストロゲンには、男性ホルモンをブロックする働きがあります。
生理前になると酒さが悪化する方も多いと思いますが、それは性ホルモンのバランスが崩れて黄体ホルモンが優位になるから。
オウヒには男性ホルモンや黄体ホルモンを減らし、エストロゲンを増やす効果があります。
つまり、ニキビや酒さの治療に性ホルモンが絡んでいる場合、オウヒによってエストロゲンが増えれば酒さやニキビが改善することになります。
女性に特に効きやすい
このエストロゲンは女性ホルモンと言われるだけあって、女性に効き目が出やすいようです。
皮膚でエストロゲン分泌が促進されても、その受け皿となる受容体(レセプター)がないと、エストロゲン作用は発揮できません。
エストロゲンの受容体は、男性より女性に多く存在します。
こちらの先生はエストロゲンが女性に効きやすい理由を分かりやすく解説してくれています。
野本真由美スキンケアクリニックの野本真由美先生の漢方薬のセミナーで、感動して、早速出した漢方があります。
それが、クラシエの十味敗毒湯です。
(中略)
クラシエのには、「桜皮」という、桜の木の皮が入っているそうで、これがあるとないとで、大違い!
これが!劇的に効くんですね~!!
(男性はダメだそうです。女性のニキビです。)
あいこ皮フ科クリニックの先生はブログをされていますが、実際に診た患者さんのお話などをブログに盛り込んでくれます。実際の診療の様子が分かりますから、信ぴょう性も抜群。
十味敗毒湯は効く人には劇的に効くようですね。
桜皮エキス(ゲニステイン)が、女性ホルモン(エストロゲン)を皮膚に誘導し、皮脂の分泌を促進させる男性ホルモンを阻害してくれるので、ニキビの発生を防いでくれます。
また、コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸も増加させ、ニキビ跡・毛穴の開きなどの悩みも改善することから女性のニキビには非常に有効だと考えています。
十味敗毒湯はエストロゲンを増やすだけでなく、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸なども増やしてくれるよう。
エストロゲンは美肌ホルモンでもありますから、酒さやニキビの改善に繋がるだけでなく丈夫な肌を作る手助けもしてくれるようです。
十味敗毒湯、みんなの体験談
ここからは私の十味敗毒湯に対する印象と、他の酒さや酒さ様皮膚炎患者さんからお聞きした体験談を少し披露。
わたしの体験談
私が十味敗毒湯を飲んだ時は脱ステの浸出液がだらだらーーーの時でした。この時飲んだ十味敗毒湯はツムラの処方薬。ボクソク配合のものになります。
脱ステ直後でリンパ液や膿がひどかったので酒さよりも酒さ様皮膚炎の症状を落ち着けないとならず、酒さの赤みに対しての効果は分かりませんでした。
その代わり脱ステ時の膿やリンパ液の軽減には非常に役立った印象。これはツムラ、クラシエ問わず十味敗毒湯の効果・効能とされているものそのままですね。
その後2年ほど時を経て、転院後の病院で「クラシエの十味敗毒湯を飲んでみて」と指定されて現在服用中という形になります。
みんなの体験談
また、このブログやTwitter、メールなどでやり取りさせて頂いた酒さ(様皮膚炎)の皆さんの中で、十味敗毒湯が効くという方はそこそこいらっしゃる印象です。
また、確かに顔の赤みに対しては即効性のある方が多く、赤みに効いたよ~~!という報告を頂くときはほとんどが数日~10日程度で赤みが引いたとおっしゃっています。
これは私の体験談プラス私がお聞きした方々だけですし、心情的に効いたという報告はしても効かなかったという報告はしにくい、という点は考慮に入れないといけません。
それを差し引いて考えても、酒さ(様皮膚炎)に対して十味敗毒湯が効く人は確かにいる、ということは間違いなさそうです。
まとめ
ツムラとクラシエの十味敗毒湯で効果が違うと言われていたので、私のブログでも選択肢があるならクラシエを、とおススメしてきたのですが、きちんと調べてみると女性ホルモンという大きな要素が絡んでいるようです。
ただ、ツムラのものが悪いかと言われるとそうではなく、私は脱ステ時の膿には効果を感じましたし、ボクソクであってもじゅくじゅくや膿に対しては効くでしょうから無意味ではないと思います。
女性ホルモンが酒さの悪化要因になっていない方や男性などには違いが分からない程度のものでしかないかもしれませんが、ホルモンバランスの悪い女性などはクラシエに変えてみただけで効果が上がる可能性もあります。
漢方というのも奥が深く、証や漢方の性質などの他、こういった包材の違いまで出てきてしまうので一概に語りつくせませんね。
私も現在クラシエの十味敗毒湯を飲んでいますので、抗生剤の影響が抜けた頃に自分への十味敗毒湯の効果を再評価してみたいと思います。