酒さ治療で顔の赤みを主眼に考えた場合、赤ら顔や顔の赤みに効く漢方薬というのが気になりますよね。
特に赤ら顔の原因というのは人それぞれで、いくつものトラブルが重なって引き起こされていることも珍しくありません。
酒さの場合は慢性的な皮膚疾患ですから、顔の赤みの原因も単一のものでないことが多いです。
漢方ではこういった様々なトラブルにも対応できるよう、その人の体質や症状に合わせた処方を行います。
漢方では赤ら顔を血の異常や水の異常と捉えて、それぞれの体質に合った生薬を調合します。
ここでは漢方や中医学が「赤ら顔」をどのように捉え、どういった考え方で治していこうとするのか見ていきたいと思います。
もくじ
血液の循環が悪いタイプ
中医学では体の不調を大きく「気・血・水」に分けて考えます。漢方の世界では赤ら顔の原因を「血の異常」と捉えることが多く、血流が悪く血液が滞っているために起こるとされています。
血液の循環が悪く、体に必要な栄養分を送り届ける「血」の流れがスムーズに行かず停滞しているため、血管が広がりやすくなります。
血の流れが停滞して悪い血が溜まっている状態を「瘀血(オケツ)」といい、酒さや赤ら顔の改善にもこの瘀血を解消する処方(駆お血剤)が用いられます。
代表的な処方は以下の通り。
- 桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
- 温経湯(ウンケイトウ)
- 桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)
- 当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
瘀血という考え方は慢性疾患の酒さとも関連が深く、酒さの症状の一つに毛細血管の拡張が挙げられることから酒さ治療にも用いられることもあります。
赤ら顔と酒さの線引きは難しいですが、酒さの場合は単なる赤みだけでなくニキビのようなブツブツや肌の炎症が起こっている事も多くあります。そのため、瘀血解消の漢方薬だけでなくニキビやその他の皮膚疾患、炎症にも効く漢方薬が用いられることもあります。
基本的には身体を暖め血の巡りを良くする漢方ですので、冷え性の方や顔色の悪い方、PMSなどの月経トラブルがあるホルモンバランスの悪い方に向きます。
熱がこもっているタイプ
上半身は熱く下半身は冷えているなどの症状がある場合、体内の熱バランスが悪くなって熱がこもっていると考えます。
体内の熱はこもっていますが体温が高いとは限らず、熱バランスが悪いのでむしろ冷えのぼせのように冷え性の一種を感じている場合も。
熱のこもりはニキビやアトピーなどの慢性的な皮膚疾患、更年期のホットフラッシュの原因ともされており、赤ら顔の原因とも考えられています。
顔の赤みは熱によるものと考えられることが多く、その熱の原因も様々。前述の瘀血であっても、血液の流れが滞った結果、血の熱がこもっているという考え方もします。
- 黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)
- 防風通聖散(ボウフウツウショウサン)
気が滞っているタイプ
漢方に特有の考え方で、「気・血・水」のうち気がスムーズに流れないことを差します。血と水は何となくイメージがつきますが、気って目に見えなくて分かりづらいですよね。
言葉にすると少しわかりやすくて、「気の持ちよう」だったり「元気」の気だったりと、とにかく体や精神を健康に保つために必要とされるエネルギーのことを「気」と考えます。
この「気」が足りないのが「気虚」、「気」の流れが停滞しているのが「気帯」と言ってエネルギーの停滞を差します。
気が滞っているので熱を持ち、その熱が顔の赤みに繋がるという考え方をします。
- 加味逍遙散(カミショウヨウサン)
- 四逆散(シギャクサン)
- 半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)
気が停滞していますので、イライラして情緒不安定になりやすく、せっかちでストレスを感じやすい繊細な神経を持っています。手足の冷えや月経周期のばらつきがあるタイプに向きます。
興奮状態にあるタイプ
「酒さ」と捉えると慢性的な皮膚疾患ですが、「赤ら顔」と捉えて人前で赤くなりやすかったり、興奮すると真っ赤になるようなタイプはには興奮を抑える働きのある漢方が用いられます。
酒さ治療ではあまり聞かないですが、赤ら顔治療ではそれなりに用いられているようです。酒さでも軽度の方には処方される可能性がありますね。
こういったタイプは、肝臓に水分が足りないと捉え、陰虚や陰虚熱という呼び方をされます。
- 知柏地黄丸(チバクジオウガン)
- 天王補心丹(テンノウホシンタン)
- 滋陰降火湯(ジインコウカトウ)
基本的には興奮状態を抑える漢方ですので、動悸や不安感、めまいなどの症状がある方に向き、手足の冷えはあまり感じない傾向にあります。一日を通して顔が赤いというよりは、夕方から夜にかけて顔がのぼせて赤くなるような方に向いています。
ニキビのようなブツブツがあるタイプ
赤ら顔に加えてニキビのようなブツブツがある場合、まずはそちらの治療を優先して行う事が多いようです。
赤みの原因となるニキビの炎症を鎮める事で、顔の赤みにもアプローチします。膿を持ったニキビや赤く腫れたニキビ、乾燥性のニキビなど、ニキビのタイプによっても処方が変わります。
代表的な処方は以下の通り。
- 清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)
- 荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)
- 防風通聖散(ボウフウツウショウサン)
- 十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)
ニキビに限らず脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎など、ブツブツを伴った皮膚炎に多く用いられます。
皮脂トラブルの多いタイプ
皮脂過剰によって酸化が起こり、赤ら顔の炎症の原因となることがあります。
こういった皮脂の分泌が多く、顔がべとべとしているようなタイプには脂性ケアが行われることがあります。
顔全体の皮脂に限らず小鼻のわきに皮脂が浮いている場合、鼻の毛穴が目立つような場合や、こめかみやおでこにニキビができやすい場合に向きます。
脂漏性皮膚炎で顔が赤くなってしまうようなタイプに良さそうですね。
- 半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)
- 竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)
漢方の考え方は独特で定型にはめられない
漢方には独特の考え方がありその考え方に基づいて赤ら顔や酒さの症状を見ると、西洋医学とは別の視点から治療を行っている事が分かります。
体のバランスを大事にする中医学では、それぞれのバランスを見て足りないものを補い、停滞しているものをスムーズに動かせるように調整します。
身体全体のバランスを正常に導くのが漢方の役目ですが、その人がどういった異常を起こしているタイプなのかの診断が非常に難しいように思います。
様々なタイプを複数持っている方も多く、例えば血の巡りが悪くて熱もこもっている、というような事もしばしば。むしろ単一のタイプで症状が改善できる方が珍しいように思います。
こういったところからも、漢方の奥の深さと難しさが分かります。
腕のいい漢方医かどうか、というのは恐らくこのタイプを細かく見分けることができ、最適な調合を行うことができる漢方医の事を差すのだと思います。
ここに挙げたのは赤ら顔で一般的に考えられているタイプであって、実際にはさらに細かく分析しながらぴったりの調合を導くのが漢方医の腕の見せ所。
きちんとした漢方医の先生に話をお伺いすると、配合が決まっている市販薬ではその真価を最大限に発揮できないと言われますが、それも頷けます。
漢方も勉強すればするほど奥の深い世界で、漢方医の先生も保険の効く処方と高額だけれど体質に合わせられる処方の狭間で悩んでいるのかもしれません。
まとめ
赤ら顔や酒さ、酒さ様皮膚炎の治療に使われる漢方薬は、西洋的な視点とは全く別の考え方に基づいて治療を行います。
顔の赤みを熱や血の異常と捉えるところも斬新ですが、気が滞った結果であったり、体内の水分バランスが悪い結果であったり、その複合要因であったりと、必ずしも一つの原因に特定しないところも面白いですね。
考えてみれば酒さや赤ら顔の原因というのも人によってさまざまですし、赤ら顔に効くと言われているお薬ですら効いた人と効かなかった人がいます。
顔の赤み治療にはプロトピックが広く使われていますが、プロトピックは赤ら顔の治療にも使われるのに酒さ様皮膚炎を発症する人がいたり、中には酒さが悪化する人もいます。
同じようにプロトピックを塗っているにも関わらず、顔の赤みをコントロールできる人が多くいる一方、酒さが悪化したり酒さ様皮膚炎を発症してしまったりする人もいて不思議ではありますが、そういった点が体質の違いなのでしょうね。
漢方薬では「顔の赤み=プロトピック」のような考え方をせず、顔の赤みの原因を探ってその本質を正そうとします。
その分、原因を排除できるだけの体質改善にはそれなりの期間が必要であったり、体質に合わない可能性もあるというリスクがあります。
漢方での治療を行っていくかどうか考えた時に、漢方医学が赤ら顔をどう捉えるかという概念は知っておいて損はないかと思います。