ステロイドの副作用には皮膚萎縮というものがあります。皮膚萎縮と言われてもピンと来ないと思いますが、分かりやすい言葉に置きかえると「皮膚が薄くなる」ということ。
酒さや酒さ様皮膚炎の場合、この「皮膚が薄くなる」状態は非常に重要なポイントでもあります。
酒さで顔が赤くなる原因は、毛細血管の拡張と皮膚の薄さからくると言われています。酒さ様皮膚炎も、ステロイドによって毛細血管の拡張と皮膚萎縮が引き起こされるので酒さと同じような症状を持ちます。
では、ステロイドで引き起こされた皮膚萎縮は、一体どのくらいの期間を経て回復するのか。
皮膚の仕組みと、ステロイドの作用がどこまで及んでいるかにヒントがありそうだったのでまとめておきます。
もくじ
ステロイド外用薬の局所的副作用、皮膚萎縮について
皮膚萎縮というのはステロイド外用薬の代表的な副作用です。副作用として正式に認められていますが、誰にでも出るわけではありません。
ステロイドは短期的に炎症を抑えるために使われるお薬です。長期間の使用や慢性的な使用をしておらず、短期的な使用に留めている場合には皮膚萎縮のような副作用は起こりにくいとされています。
皮膚萎縮のようにステロイド外用薬(塗り薬や貼り薬)で現れる部分的な副作用は、局所的副作用と呼ばれます。
この局所的副作用はステロイドを使用していた箇所に現れるため、皮膚萎縮が起こるのもステロイドを塗っていた箇所になります。
つまり、ステロイドの副作用による皮膚萎縮を一言でまとめると、
という事になります。
少し恐ろしいのは、少々肌が薄くなっても自覚症状がない場合が多く気づきにくいため、ステロイドの慢性的な使用に拍車をかけやすいということ。
肌が薄くなったという自覚が現れる頃には、皮膚萎縮も相当に進んでいる事が多いです。
ステロイド塗ると、肌がすぐ綺麗になりますもんね・・・。
ステロイドの皮膚萎縮が肌のどこまで作用するか
表皮の萎縮
ステロイドの皮膚萎縮は、皮膚の表面から始まります。
皮膚の表面にあるのは角質層を含む表皮です。この表皮が薄くなる、つまり角質層の層が減っていき、セラミドなどの細胞間脂質の合成が抑制されます。
肌の角質層が減っていて細胞間脂質なども減少しているため、水分や油分を蓄える力が弱く、外部からの刺激も受けやすい状態です。
とてもシンプルですね。多くの場合、肌が薄いというとこちらのイメージがあるかと思います。
ただ、ステロイドを使用していて、この段階で肌が薄くなったと気づく人はあまりいないでしょう。
真皮の萎縮
さらに皮膚萎縮が進むと、表皮の下の真皮層にまで影響を及ぼします。
ステロイドの皮膚萎縮というと、こちらのイメージが強いかと思います。
真皮層というのは表皮を支える土台のようなもの。つまり肌の土台となってハリや弾力、潤いの元となっています。
真皮層はコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸が存在している層。保湿成分として名高い成分ですよね。
コラーゲンは肌の弾力やうるおいを保持する機能を司っており、「皮膚線維芽細胞(ひふせんがさいぼう」によって作られます。
線維芽細胞で作られるコラーゲンやエラスチンは繊維状になっていて、肌の表面(表皮)を支えています。
真皮にまで到達した皮膚萎縮は、この繊維状の支えを減らしてしまいます。
表皮を支える繊維状の支えは、膠原繊維と呼ばれます。コラーゲンもその一種であり、コラーゲン繊維とも呼ばれます。
ステロイドの真皮での皮膚萎縮は、皮膚線維芽細胞の増殖が抑制され、膠原繊維が減っている状態。
一言でまとめると、以下のような感じ。
皮膚萎縮がここまで進むと、肌の弾力やキメも失われてきますので多くの人が気づきます。肌が薄くなったり弱くなったと感じる頃には、既に皮膚萎縮が真皮に到達している可能性があります。
皮膚萎縮からの回復期間
ステロイド剤による皮膚萎縮からどのていどの期間で回復するか、それは個人の体質やステロイドの塗布期間、現在の生活スタイルに左右されます。
ステロイドを塗っている期間が長いほど皮膚萎縮も進行しており、真皮層へのダメージも深いと予想されます。そのため、ステロイドを塗っている期間が長いほど回復には時間がかかります。
また、肌を回復させるには皮膚のバリア機能を低下させないような生活が望ましいですが、個人の体質によってアレルゲンや悪化要素が違うため一概には言えません。
そういった前提がありつつも、少しの目安となるのは皮膚の再生期間。
表皮の入れ替わり(ターンオーバー)
皮膚というのはターンオーバーという仕組みを繰り返して新しく生まれ変わっています。28日周期で入れ替わるとか、年齢を重ねると周期が遅くなるとか言われます。
このターンオーバーは、一般的に表皮の生まれ変わりを意味しています。
身体の部位や年齢、新陳代謝の差などによって異なりますが、一般的に28~56日程度。表皮であればこのサイクルを繰り返して肌が再生されていきます。
このため、ステロイドの皮膚萎縮が表皮にしか及んでいない場合、比較的早く肌が再生することが考えられます。
ステロイド離脱の一次症状が3か月程度でぐっと良くなる事が多いのは、表皮の入れ替わりがある程度進むということも原因のひとつ。
肌表面の痛みは数回のターンオーバーで整っていくことが多いです。
真皮の入れ替わり
表皮が数十日程度で入れ替わってくれるのに対し、真皮層の入れ替わりは非常に遅いです。入れ墨や真皮まで達した傷が消えないのはこのため。(入れ墨は真皮に着色を行います)
コラーゲンなどの膠原繊維は繊維であって生きた細胞ではなく、ターンオーバーという仕組みはありません。
真皮層にある生きた細胞は「繊維芽細胞」で、この細胞がコラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンなどを生み出しています。
古くなったコラーゲンやヒアルロン酸は、繊維芽細胞の代謝によってゆっくりと作り変えられます。
このため、真皮層のコラーゲンが一通り代謝するには2年以上の歳月がかかると言われています。2年なら良い方で、5~6年や7~8年とする説も。
このように、真皮にまで達してしまった皮膚萎縮の影響を元に戻すのはとても長い年月がいる大変な作業。
おまけにコラーゲンなどは年齢によっても減少していくとされています。
真皮への皮膚萎縮は、年単位の期間を経てとてもゆっくりと回復していくと考えられます。
ステロイドで皮膚萎縮が起こるのに必要な期間
ステロイドで皮膚萎縮が深刻な問題になるのは、真皮層にまで達するほどの長期連用の場合が多いです。
真皮にまで達してしまうと見た目にもシワのようなものが多くなりますし、明らかに普通の肌との違いが分かるようになります。
通常、表皮細胞であれば肌のターンオーバーで数か月もすれば元通りになりますし、ステロイド剤の短期使用で真皮層にまで達するほどの皮膚萎縮は起こらないと考えられています。
また、使用するステロイド剤のランクによっても皮膚萎縮が始まる期間に差があり、ランクの強いステロイドほど早く皮膚萎縮が始まります。
表皮への皮膚萎縮が起こる期間の実験
表皮に対する皮膚萎縮は、最強クラスのステロイド剤を2週間程度の連用で表皮の薄さが約半分になったという話があります。脱ステ医として有名な深谷元継先生が、ご自分の皮膚で実験されたようです。
ちなみに、表皮の平均的厚さは0.2mmほどで、ハガキの紙よりやや薄い程度です。今回の実験結果では、ほぼ半分くらいに厚さが減じているので0.1mmくらい、これは通常のコピー用紙の厚さです。
この実験結果でさらに注意しておきたいのは、見た目や触りごこちで何の変化も感じられなかったこと。皮膚の専門家でもある皮膚科医の医師ですら、皮膚の薄さが半分になっていることに見た目や触りごこちで分からないという事になります。
皮膚は見た目も触り心地も、まったく変化は感じないのです。しかし、組織を採取して顕微鏡で見てみると、これだけはっきりと表皮というのは萎縮するもののようです。
表皮の厚みである0.2mmというのはラップくらいの厚みだそうです。確かにラップの厚みが半分になっても分からないですよね。
それにしても思い切った実験をされますね。深谷先生のブログは脱ステの情報源として非常に頼りになります。
皮膚萎縮を起こさないためのステロイドの使い方
真皮にまで達するような皮膚萎縮を起こさないようにステロイドを使うには、ステロイドの慢性的、長期的な連用を止めることです。
ステロイドで薄くなった肌は、時間の経過とともに回復していきます。
ステロイドは炎症を抑えるためにとても効果的なお薬ですが、使い方を間違えると強力な副作用に悩まされることになります。
酒さ様皮膚炎も、結局はステロイドの慢性使用が原因で起こっています。
表皮の萎縮はターンオーバーの仕組みで元に戻っていきます。この仕組みに必要なのが4~6週間。
短期間に炎症を抑えるために使い、炎症が治まった後のダラダラ塗りをしない、連用する場合は休薬期間を置く、などの対策が必要です。
長期間に渡って使い続けるほど皮膚萎縮の程度は進み、回復期間も長く必要になります。真皮の萎縮が進んでしまうとなかなか元に戻りません。
ステロイドは効果的なお薬だからこそ、使い方に注意し、自己判断で塗るのは止めて医師から適切な塗り方を指導してもらいましょう。
皮膚萎縮と脱ステのリバウンド
皮膚萎縮と脱ステロイドのリバウンドに関しても、大きな関係がありそうです。
私は自分のアゴがリバウンドを起こしてしまい、もう少し皮膚が薄くなって弱っているという認識を持っていれば今回のリバウンドを防げたかも、と思っています。
なにせ、しつこい皮剥けという兆候があったにも関わらずのほほんと普段と同じケアを行っていましたから。
頬にもアゴにも同じように塗っていたステロイドですが、今回はなぜか顎だけのリバウンド。
肌の厚みや機能が回復していない部位がリバウンドを起こしたと考えると、頬にはリバウンドが起きていない点が納得できます。
顔の皮膚では頬よりアゴの方が薄いので、皮膚萎縮やリバウンドも起きやすいのかもしれません。
頬の皮膚萎縮は回復傾向にあるけれど、顎は回復しきれていない、ということかな、と自分で納得しています。
皮膚萎縮は肌のバリア機能の低下を意味しますので、刺激にも弱くなっているはずです。脱ステ1年以上経ち、良い状態を保っていたので少し油断していました。
真皮層も弱っているのであれば、脱ステ後の経過はもう少し長期間見なくてはならないかもしれません。脱ステ後1年程度で油断するな、や脱保湿は2年くらい続けろ、という意見があるのも、こういった事が一つの原因なのかもしれませんね。
まとめ
ステロイドを使用していると皮膚萎縮は進んでいきますが、軽度であれば時間経過で治ります。
どのくらいの期間で治るかというのが一概に言えないのは、個人の体質やステロイドの使用期間、使用したステロイドの強さなどによって大幅な差があるため。
ステロイドの使用期間が短くて弱いものを使っていた人ほど治りが早いですし、同じランクを同じ期間使っていても若い人の方が治りが早いです。
また、酒さ様皮膚炎の方は経験すると思いますが、脱ステロイドのようなことをすると一時的に症状が悪化します。その場合でも、回復期間には個人差があり、いつまでもリバウンドを繰り返す人もいれば短期間で治ってしまう人も。
皮膚萎縮が真皮にまで到達するのであれば、ステロイドを使った部位というのは非常に弱くなっているはずです。
ステロイドの皮膚萎縮というのは、表皮及び真皮のたんぱく質合成が阻害されるために起こります。ある日突然真皮への皮膚萎縮が始まるわけではありません。
酒さ様皮膚炎を発症した方々は、ステロイドを塗っていた部分の皮膚が弱くなっている事を意識しておきましょう。